海洋空間佳本


アマゾン河の食物誌 アマゾン河の食物誌」★★★★★
醍醐麻沙夫
集英社

2006.9.22 記
どうも最近は本といえば小説ばかりに食指が動く傾向の強かった私だが、高野秀行氏を除けば、近年読んだ中ではダントツに面白かったノンフィクション作品。

この著者の名前は開高健の「オーパ!」を読んで初めて知った。
テーマに惹かれ、またその名前に見覚えがあったからこの本を買い求めたわけだが、誠に失礼千万ながら、内容にこそ期待はしたものの、日本語で構築された文章作品としての完成度においては、はいささか疑ってかかっていた、読み進めるまでは。
ところがところが、まず第一に、この著者は日本語を操るのがものすごく巧い。
これは海外における稀有な体験の数々を報告するノンフィクションだが、同時に、素晴らしい文学作品でもあった。

私自身とても興味を持ち、また期待もしていた内容の方も輪を掛けて素晴らしく、登場する料理や食材の数々、また街や人物たちがとてもリアルに感じられる。

それだけじゃなくて、この本は実を伴った薀蓄にも満ちている。
たとえば、アマゾン河から海に注ぐ1日分の水量はテムズ川のそれの1年分に相当する、だとか、ヨーロッパからアマゾンに輸入されたミツバチは、1年目こそヨーロッパに住んでいた時のように冬に備えてせっせと蜜を集めるが、そもそも寒くなる時期などないアマゾンでは頑張って食糧を貯蔵する必要がないので2年目以降は蜜集めに精を出さなくなる、だとか、アマゾンの犬は舌をピラニアに噛まれないように、河の水を飲む時はピチャピチャと少しなめるごとに数メートル移動する、だとか。
そしてそれらの雑多な知識が、どんな教科書や参考書や評論よりもスムーズにスッと脳内に入り込んでくる。

一刻も早くアマゾンに行かなければ。





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