版元による内容紹介や各レヴュー等を読んだ折は、正直言って食指は動かず、あまり合わなさそうだなあ等と思っていたのだが、それらの声の多くが絶賛であり、またダガー賞獲得によって高評価が定まっていることもあって、つい購入。
さらに読み始めて序盤、やくざの邸宅で飼われている護衛犬の役回りにドーベルマンを当てるという、あまりに芸のないステレオタイプにやや辟易してしまった次第…しかしながら、ここから良い意味で大きく裏切られていくことになる。
引き続き展開は基本的にベタ、平山夢明氏を彷彿とさせる暴力描写も苦手な人には厳しかろうが、確たるプロットに則った筋運びが巧み、文章も上手くてスムーズなので、非常に高いリーダビリティに導かれるまますいすいと残りページは尽きていく。
そしてぶちかまされる、まさかの叙述トリック。
作り物とはいえ、お嬢様のあまりに強かな変貌はさすがにやり過ぎではないかなという感があるが…。
終わらせ方もまた想像の範囲を大きく超えることはないオーソドックスな流れではあるが、そこに必然性はしっかりとあった。
作中で語られない日々だからこそ、その重さが感じられるとも言える、40年というあまりに長くて暗い逃避行の年月を共に過ごしてきた、名前の付けられない関係性の2人にとって、これしかないであろう結末…と言っていいかもしれない。
畢竟この作品は、ありとあらゆるものを分類しラベリングしなければ気が済まない世の中に対して、著者が真っ向から突き付けた声明ではないだろうか。
人が作った社会の枠組みや常識という名の足枷に囚われることなく、ありのままのアイデンティティで生きていくことの何が悪いんだ、という宣言。
人間も動物の一種に過ぎない。
著者の主張(と私が思っている内容)に共感する。
それにしても冒頭に立ち返るが、惹句があまりに下手過ぎる。
どこがシスターなんちゃらものだ?
「人は、誰かと誰かが一緒にいることに名前をつけないと不安になるらしい。だからその目を欺くため、その目に合わせて二人の名前を変えてきた。」
「何が"この業界"だ。世の中みんなそうだろう」 |