当たり前のように山中の道なき道を往き、時にありあわせの材料で小屋を掛け、幾日も歩き通して、人跡未踏の渓流で釣りを続けながら何週間も滞在する…失われてしまい二度と取り戻すことのできない、昭和の里山の原風景がここにあるのは、「アラシ」や「羆吼ゆる山」と同じく。
"バリ"どころではない、まさしく山に生きるとはどういうことかという"リアル"を目の当たりにし、軟弱な現代人は慄くばかり。
ノンコを始めとする兎や狐を狩る自立した犬たちや、アイヌの山人・清水沢造と羆の死闘等、これまた他作で見かけた題材が登場するのも嬉しい。
科学技術の進歩と工業の発展に伴い、大概の河川は支流に至るまで護岸がコンクリートで固められ、ごく限られた場所以外は車で横付けできるようになってしまったが、それで良かったんだと一片の疑念なく断言できる人は果たしてどれほどいるだろうか?
かつて確かにあった、今とは時空軸のスケールが異なっていた世界、それこそが、私たち人間という種の記憶に刻み込まれた理想郷なのかもしれない。 |