海洋空間佳本


改良 改良」★★★★☆
遠野遥
河出書房新社

2024.2.8 記
めくるページは決して軽くはない。
気持ちは晴れやかになるどころか反対にどんより重くなるばかりで、主人公が凄惨なシチュエーションに陥るあたりからは特に読み進めるのが、しんどい。
それは、描写があまりに直截的であり、剥き出しに過ぎるから、ともちろん言えるのだが、決してそれだけでなく、人により濃淡こそあれ、読者それぞれが"我が事"として自らを重ね合わせることになるからだ。
自分の人生とはまったく関係がない、接点などなさそうな物語に見えたとしても、必ずどこかに自身の生にフックする要素が潜んでいる。
そして心に引っ掛かってくるその何かは、読む人にとって決してポジティヴなものではなく、どちらかと言えば思い出したくないもの、積極的に他人に明かしたくはないものであるから、読んでいて苦しくなる、そんな普遍性を持った作品である。
答えは既に出ているので後出しじゃんけんになるが、このデビュー作をしたためた小説家は例えば遠からず芥川賞などを取って広くその文学性が評価されるだろう…と言いたくもなる。

文庫巻末に収められた平野啓一郎氏の解説がまた名文であり、読者が漠と感じていたであろう主人公のパーソナリティに対する印象を言語化して明瞭に説明している。
深く納得。





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