海洋空間佳本


鴨川ランナー 鴨川ランナー」★★★★☆
グレゴリー・ケズナジャット
講談社

2022.7.29 記
多分に実体験をベースに構築された物語であろうことは、容易に推察できる。
外国人が母語ではない日本語でしたためた小説、ということで、それを念頭に置いて意地悪な読み方をすればツッコミどころは皆無ではないが、そういった環境がまったく気にならずに内容に没入できるほど、文章力のレヴェルは高く、まず素直に敬服する。
そして中身それ自体が、日本で暮らす日本人である我々読者に投げ掛けてくるボールもまた、ずっしりと重く、キレ味鋭い。
日本に滞在するアメリカ人は、例えば欧米における一部のアジア人や黒人のように、可視化しやすい典型的な差別の対象となることはあまりないだろうが、当人にとっては、違和感や疎外感を抱くことに繋がる経験をすることは多々あるのだ…という事実を、具体的なエピソードの数々によって上手く表現している。
特に日本人は世界の中でも、歴史的に見て同調傾向が強い国民であろうと思われるので、その中の一人として、著者が伝えんとするもやっとした感情の塊のようなものを、神妙な気持ちで受け止めることになった。
アイデンティティとは何ぞや。





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