海洋空間佳本


丸太町ルヴォワール 丸太町ルヴォワール」★★★★☆
円居挽
講談社

2016.3.4 記
ひたすら理屈をこねくり回すダイアローグが延々と続く第1章の途中で、正直ちょっと疲れを覚えたが、第2章以降、舞台が転換し物語が展開し始めると、俄然引き込まれていった。
登場人物や世界観の設定、そしてプロットの運びに至るまで、とにかく荒唐無稽でマンガ的な味付けがなされているのだが、そのナンセンスぶりに呆れたり飽きたりすることなく、期待を抱きながら読み進めることができるのは、作者の筆力によるものだろう。
また、森見登美彦氏や万城目学氏の著作同様、自分と同じ大学を卒業した若い作者が京都を舞台に描いている、というアドヴァンテージがあるので、若干の贔屓目もあるかもしれない。
両著者の作品と同種の匂いも実際に本作からは立ち上っているし。
空飛ぶ叡山電車なんて発想はそうそうかぶらんはずや。

本格として典型的なスタイルに落とし込むことなく、充分にチャレンジングな構成を立てながらも、その骨格はしっかりミステリーである、と感じられる完成度ではあるが、特に終盤、ちょっと小手先に走り過ぎ、要らぬ叙述トリックを多用している、という印象もなくはない。
敢えて“軽さ”をアピールする、というのもひょっとしたら円居挽氏の狙いの1つなのかもしれないが、もう少し落ち着いたクライマックス以降にした方が、あるいはより腰が据わった作品になったのでは、という感想もある。
いずれにせよ、続編が既に3冊出ているようなので、ぜひとも買って読まねば。





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