海洋空間佳本


さいごの毛布 さいごの毛布」★★★★☆
近藤史恵
KADOKAWA

2023.12.12 記
老犬ホームを舞台にした小説で、このタイトル…てっきり動物好きの涙腺をダイレクトに刺激してくるべたな連作集でないかな…と勝手に推測していたが、まったくそんな作品ではなかった。
もちろん犬ネタでうるうる来そうになる場面はあるにはあるが、あくまで物語の主人公は人間であり、描かれるテーマも人と人との絡みにまつわるあれこれである。
例えば、身勝手な犬の飼い主たちはつまることろ、身勝手な不倫男のメタファーであり、そこに共通して見えるのは、相手の気持ちや立場を慮らず利己に徹する未熟で歪な愛情だ。
厳然と横たわる様々な社会問題を、老犬ホームというギミックを使って巧みに読者に提示している、とも換言できる。
そしてしっかりミステリーとしての要素も織り込んでぐりぐり読ませる手練れぶりが、さすが近藤史恵氏。

単身の高齢者がペットを飼うことについては否定的な意見がほとんどだろうが、実は孤独な老人にこそペットの存在意義は大きく、そのためにも老犬ホームという選択肢が増えるべきではないのか…という、直截的な題材に即した示唆もなされており、著者が心からペットとの共生を望んでいることもよく分かる。

「ふたつの愛情はあきらかに違うものなのに、辿り着く場所はどちらも一緒なのだ。」
「未練がましいのは、いつも残された人間だ。」





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