海洋空間佳本


サヨナライツカ サヨナライツカ」★★★★★
辻仁成
幻冬舎

2006.11.29 記
いつもの辻仁成節がこれでもかというほどに炸裂している。

おそらくは間違いなく自身がモデルであるだろう、彼が書く恋愛物語に登場する、弱くて迷いやすくてもどかしくて、それでいて愛に生きる男性主人公たち。
この作品の主人公も紛うことなく、その線。

すべては優柔不断という性質に帰する主人公自身の責、自分が蒔いた種によって問題が持ち上がり、それはそれで読んでいるこちらとしても不本意ながら若干腹が立ったりもするんだが、しかしながら彼の全人格を嫌い否定するんて気分には到底なれず、逆に「あ、ここ俺と似てる…?」なんて思いながら行く末を気にしている。
それはつまり、辻仁成が殊、この類の物語に関しては稀代のストーリーテラーであり、またその産み出す文章群が理屈や文法を超越して美しいからに他ならない、と思う。
おそらくは著者の目論見通りに、心が動かされてしまっている。





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