海洋空間佳本


スクラップ・アンド・ビルド スクラップ・アンド・ビルド」★★★★☆
羽田圭介
文藝春秋

2015.9.16 記
芥川賞受賞作ってこんなに軽快やったっけ? と思ってしまうぐらい、スイスイと読みやすい。
大層に言ってしまうと、現代社会が抱える普遍的な種々の矛盾や課題のようなものが、これ見よがしにその存在を主張することなくサラリと物語に埋め込まれていたりして、一見ちょっと間の抜けた爺さんと孫のやりとりを中心としたほんわかストーリーでありながら、そういった意味では充分に文学なんだろう。
破壊と再生、というおそらくは本作の主題が、筋繊維の肥大、つまり肉体の鍛錬という具体的な行為に投影されている構造も素直に呑み込むことができたし、また文章に現れるユーモアのセンスもちょうどいい感じがする。
ただ1点、作品の最後の一文が、情景の描写というパターンに落とし込まれていたのは、個人的に残念だった。
ここはメタファーではないところで勝負してほしかったように思う。





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