海洋空間佳本


姑獲鳥の夏(上)姑獲鳥の夏(下) 姑獲鳥の夏(上)」「姑獲鳥の夏(下)
★★★★★
京極夏彦
講談社

2005.8.4 記
京極夏彦が、文字通り、満を持して世に送り出したであろう文壇デビュー作。

膨大な知識を礎とする根拠に裏打ちされた、そして、幾重にも重なり合う伏線と呪文のごとく美しい語彙が積み上げられた、奇妙な比喩であるかもしれないが、まるで古代エジプトの大ピラミッドのような小説である、と私は感じた。
序盤において、京極夏彦が京極堂の名を借りて語り広げる脳と心と意識と記憶についての哲学的な考察は珠玉。

一人の傑物が颯爽と登場して活躍し、事件難題を華麗に解決する、という類の物語はこの世に少なくないが、本作のように複数の常人離れしたヒーロー候補になりうる人物が現れ、またそのそれぞれが適切に役割を演じきって破綻をどこにもきたしていないような作品は稀有なのではないだろうか。
その非常に近い位置に、いわば我々凡人にもっとも似通う存在である関口巽という人物が立ち描かれている、という設定も何だかいささか痛快。





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