海洋空間佳本


宇喜多の捨て嫁 宇喜多の捨て嫁」★★★★★
木下昌輝
文藝春秋

2017.6.5 記
第一話でドンと現状が提示され、次の話では一気に時代を巻き戻し、そこから徐々に時計を進めつつ種が明かされていく…、という構造の連作集となっている。
その手法もさることながら、各章が読み物として充分な魅力を備えていて、掛け値なしの傑作と言えよう。
物語が進むにつれて、いい意味で期待や予測が裏切られ続けた。

古くは「藪の中」等を挙げるまでもなく、視座を変えることで多角的な考察を読者に示す創作物は数あろうが、その中でもこの作品はキャラクターの魅力という点で群を抜いている。
唾棄すべき卑劣な武将という第一印象をまず植え付けておきながら、以降でその人物像にまつわる様々な事実や周囲の状況を明らかにしていき、ラストでは突如、肉親の情愛にクローズアップして、読者の心を激しく揺さぶる。
そんな一見強引にも感じる筋書きを実にスムーズに、難なくこなしてしまうこの腕力はすごい。

明らかな日本語の誤用表現が散見されたのがいささか残念ではあるが、それが瑕疵にならないほどのクオリティー。





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