海洋空間 NBA
スーパープレイヤー列伝


Player File No.9     2003.7.9 (2005.6.7 データ更新)



トレイシー・マグレィディ Tracy McGrady トレイシー・マグレィディ

ガード/フォワード
203cm 95kg
1979年5月24日生
1997ドラフト1巡目9位指名
所属チーム:ヒューストン・ロケッツ
出身校:マウント・ジオン・クリスチャン・アカデミー高
主なタイトル:得点王2回
        オールNBA1stチーム2回
        オールNBA2ndチーム2回
        2001MIPアウォード
        オールスター選出5回
        
…など



総合バスケットボール力は現在のNBAにおいてナンバーワンである、
と言っても過言ではない、究極のオールラウンダーがこのトレイシー・マグレィディ。
愛称はT-Mac

その動きはとにかく速く、そしてあくまでしなやか。
ボールを奪い、運び、パスをし、ゴールを決めるためだけに費やされる、
その一分の無駄もない一連のムーヴは、ネコ科の猛獣のようですらある。
一歩目の踏み出しの速さ、スティールに手を伸ばす刹那、
バスケットに向かってフワリと浮遊するスパン。
チーム事情も影響して、一人でボールを持ち過ぎてしまうという嫌いも時にあるが、
運動能力、スタミナ、技術、コートヴィジョンなどなど、すべてにおいて卓越、
とても24歳(2003年7月現在)とは信じ難い、凄まじいまでの完成度の高さである。

クリエイティヴィティも並々ならぬものを有しており、
とりわけ2002年のオールスターゲームで見せた“一人アリウープ”
つまりそれは、フリーの状態でボールをフロントコートに持ち込んで、
そのままダンクに行くかと思いきやバックボードにボールをぶつけ、
それを空中でキャッチして自らリムに叩き込んだ、というプレイなのだが、
まさに圧巻の極みであった。

マグレィディは1997年、高校から直接NBA入りした。
当初は体の線も今よりさらに細く、
またプレイヤーとしての完成度も到底今のレヴェルに届くものではなかったので、
スターターとして使われるゲームも少なく、得点アヴェレージも二桁に届かず。
リーグのスタープレイヤーどころか、チームの主力ですらなかったわけである。
しかもマグレィディに遅れること1年、
Air Canada”としてルーキーイヤーからリーグに大きなインパクトを残した
従兄のヴィンス・カーターが彼と同じトロント・ラプターズに入団、
ポジションが同じということもあって、
さらに陽の当たらぬところへと追いやられる格好となってしまったT-Mac。
当時のT-Macは、従兄のスーパースター、カーターの影にすっぽりと隠れ、
自らの実力を信じながらも、その自信と結果を外界にアピールできないままの、
いわば羽化する前のサナギのようなものだったのだろう。

初めのうちは良好に見えていたカーターとの関係も、T-Macの成長とともに悪化、
3年目のシーズンを終えた2000年、マグレィディはオーランド・マジックに移籍する。
当時のルールが定める最高額でマグレィディと契約したマジックに対し、
過大評価ではないか?」というクエスチョンマークが取り沙汰されることもあったが
(ちなみに私もそう思ってました)、マグレィディは見事も見事、
そんな批判など軽く吹き飛ばしてしまうにあまりある結果を叩き出したのである。

2000−2001シーズンのスタッツは、
得点26.8←15.4(前年)、リバウンド7.5←6.3、
アシスト4.6←3.3、スティール1.51←1.14と急成長。
その年最も成長したプレイヤーに贈られる、
MIPアウォード(Most Improved Player Award)も堂々受賞した。

折りしもその年は、グラント・ヒル*1が鳴り物入りでオーランド・マジックに入団、
T-Macは当初、あくまでエースのヒルをサポートする役目、
いわばセカンド・オプションとしての役割が期待されていた中、
ヒルが怪我のためわずか4試合の出場に留まってしまい、
すべての重圧、期待がT-Macの両肩に圧し掛かることになってしまったシーズン。
否応なしにチームの大黒柱として立たなければならなかったその状況が、
結果的にマグレイディの急成長を促すことになったのである。

同じシーズン以降、怪我のダメージで従兄のヴィンス・カーターの成績が下降、
リーグ内に占めるそのポジショニングの重要性を急激に失っていったのと極めて対照的に。

T-Macはその後も順調に成長を続け、2003年、ついにNBA得点王を獲得するに至る。
シーズン後半のコービ・ブライアントとの点取り合戦は本当に激しかった。
T-Macが40点取ればコービも取る。45点取れば彼も。50取ればまた。
「こいつらチーム・プレイ無視のスコアリング・マシーンかよ!」って感じもなきにしもあらず。
しかしT-Macは単なる点取り屋ではなく、
2002−2003シーズンはアシストにおいても5.5とキャリア最高を記録。
その他にもスティール(1.65)、フリースロー・パーセンテージ(79・3%)、
スリーポイントシュート・パーセンテージ(38.6%)でもキャリアハイをこの年にマークした。

ポジショニング・ボーダーレスが進む一方の今のNBAは、
何でもこなせる優れたオールラウンダーが数多く存在する時代。
ボールを奪い、運び、パスをし、ゴールを決める。
そのすべてのことを遂行できるプレイヤーの頂点に、今トレイシー・マグレィディがいる。






*1 グラント・ヒル…オーランド・マジック所属のスモール・フォワード。パス、シュート、リバウンド、
   そして身体能力と、すべてにおいて高い能力を持つオールラウンダーとして、
   また優等生のイメージを持つクリーンなプレイヤーとして1994年、デトロイト・ピストンズに入団した当初から
   これからのリーグを背負っていく存在として期待されていたが、左足首の大怪我により
   ここ3シーズンは合わせてたった47ゲームにしか出場できていない。





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