海洋空間 NBA



続 日本人プレイヤーは?   2003.10.25



今年の夏、突然、我々日本人バスケットボール・フリークにとって
胸躍るようなニュースが舞い込んできました。

それは“田臥勇太がNBAのサマーリーグ*1に参加する”というものでした。
特に、「日本人プレイヤーは?」の項でも書いたように、
私は現時点で最もNBAに近い日本人プレイヤーは
森下雄一郎だと思っていましたので、その驚きは一層。
それに、田臥は昨シーズン、
JBL(Japan Basketball League)スーパーリーグトヨタ自動車に所属し
新人王を獲得したものの、絶対的なエース(フロアリーダー)といった存在ではなく
ベンチからのスタートもたびたび。
シーズン終了後に退社、再渡米してもう一度NBAを目指す、と公言していたものの、
そんな状態だったものでなかなかに厳しいんじゃないかなとも感じていました。


田臥勇太
173cmと小さな田臥勇太

そこにきての突然のサマーリーグ参加の報。
ビックリはしましたが、それと同時に本当に他人事ながら嬉しい知らせでした。
それも、NBAのダラス・マーヴェリックスからの参加というビッグ・サプライズ。
サマーリーグにはNBAに属するチームのみならず、
NBDL(National Basketball Developmental League)や
ABA(American Basketball Assosiation)など、
NBAの下部組織に当たるリーグや独立系のリーグからも多くのチームが参加しているのですが、
それらのチームから参加するということと、NBAのチームから参加するということは
まったくレヴェルの違う話だと考えて差し支えありません。
このことだけでも、日本人にとってはすでに快挙と言える事柄なのです。
それにダラスといえば目立つことが好きな名物ミリオネア・オーナー、
マーク・キューバン*2がおり、その選手構成も
ダーク・ノヴィツキー*3スティーヴ・ナッシュ*4らの主力を含め、
多国籍軍”と異名をとるほど外国人プレイヤーが多く、
非常に期待を持たせるものでした。
ちょうど野茂英雄がメジャーリーグ入りした頃のロサンジェルス・ドジャースのように。

無論公式戦ではありませんし、
NBAを目指す若者たちが全米のみならずそれこそ世界中から
ごまんとやってきているサマーリーグだけに
正式スタッツや詳細な情報入手もままならぬうちにその開催は終わり、
「田臥は一体どうなったんだ?」と気を揉んでいる日々。

そんな時に入ってきた、前段なぞ遥かに上回る電撃ニュース
デンヴァー・ナゲッツが田臥勇太と契約を交わした”。
これこそ「マジかよ!!!!!」って思いました、ハッキリ言って。
NBAチームのユニフォームを着て
キャンプおよびプレシーズン・ゲームに参加する権利を堂々得たのです。
これは、冒頭の“サマーリーグに参加”などという事実とは
もうまったく次元が異なります。
それだけでも凄いんですけどね。
前者は例えて言うならば、
入団テストを受けるチャンスを与えられた”といった程度の価値。
ところが今回はそんなものではなく、
オープン戦で使ってみて良ければ一軍入りだ!(日本プロ野球風)”
という意味を持つものなのです。
興奮するなというのが無理ってもんです。
正直言って、自分が生きてるうちに
日本人NBAプレイヤーが誕生することはないだろうと思っていましたから。

諸手を挙げてこのニュースに喜び叫びはしましたが、
それとともに大人になってしまった哀しさゆえか、
いらぬ勘繰りまで同時にしてしまったこともまた事実です。
つまり、今回のデンヴァーの決断には、
少なからず経済的なファクターも関係しているに違いない、という邪推です。

ご存知のように、NBAは最近、一年おきに日本でシーズン開幕戦を行っています
(2001年はテロ発生のため中止)。
日本だけではなく、中国や韓国、台湾、
東南アジア諸国などへの遠征も積極的に推し進めています。
そこには、世界のあらゆる国の人々に最高峰のプレイを見てもらいたい、
というピュアな動機ももちろんあるでしょうが、
それとともにビジネスとしての大きな意義も
確固として存在しているというのもまた、至極当然でしょう。
そんな一連の戦略の中で、
ここ日本が特に重要なポジションを占めるマーケットであるということは、
メジャーリーグの例を見るまでもなく明らかです。

例えばNBAに日本人プレイヤーが誕生したとして、
試合を観るために現地を訪れる日本人旅行者は激増するでしょう。
日本国内でのテレビ放映も激増するでしょう。
報道関係者の出入り、動きも激増するでしょう。
日本におけるグッズの売上も激増するでしょう。

以上のような薄汚い想像からではありますが、
もしメンバー入りのライヴァルと目されている
ジュニア・ハリントンと同等の実力評価を田臥が得ることができれば、
ロスターに残るのは田臥の方
だ、と私は思っていました。
何としても残ってほしい、と本心からそう願っていましたし、仮に今回はダメだったとしても、
可能性は決して手の届かないところにあるものではない、ということがよく分かり、
日本人NBAプレイヤー」というものの存在を
現実的なものとして想像することができるようになりました。


カーメロ・アンソニーとマッチアップする田臥
ナゲッツのゴールデン・ルーキー、
カーメロ・アンソニーとマッチアップする田臥

…と感じていた矢先の解雇報道(2003.10.24)。
非常に残念な結果ではありますが、
アシスト、ポイントともに田臥選手が記録した数字は
予想を遥かに上回る、及第点と呼ぶに充分に値するものだったと私は思います。
田臥勇太選手、ナイスファイト。
そして彼と、彼に続かんとする日本人たちへ、
届かぬながらも私は陰からエールを送り続けましょう。






*1 サマーリーグ…毎年NBAのシーズンオフである夏季に行われる、
   プロバスケットボールのリーグ群のこと。NBAのチームはもちろん、
   それ以外にも独立リーグに所属するチームなどが多数参加する。
   ドラフトにかからないNBAを目指すプレイヤーや、その年NBAにドラフトされたルーキーたちにとって
   最初の登竜門。

*2 マーク・キューバン…ダラス・マーヴェリックスのオーナー。
   起業したITヴェンチャー、いわゆる“ドットコム企業”が大当たりし、30代の若さでリタイア、
   長年の夢だったNBAチームのオーナーの座を手に入れた。
   典型的な“金は出すけど口も出す”タイプのオーナーで、そのパフォーマンスも派手、
   審判に対する暴言や犯した数々の規定違反などによって
   リーグから課された罰金の総額もものすごい勢いで累積中。

*3 ダーク・ノヴィツキー…ダラス・マーヴェリックスに所属するドイツ人フォワード。
   1998年にNBA入り、翌シーズンからメキメキと頭角を現し始め、
   今ではチームのみならずNBAをも代表する実力派。7フッター(213センチ)ながら、
   いかにもヨーロッパの選手らしくロングレンジ・シュートも得意としており、
   その勝負強いスリーポイント・シュートは脅威。

*4 スティーヴ・ナッシュ…同じくダラス・マーヴェリックスのカナダ人ポイント・ガード。
   特に超人的に秀でた一芸を持っているわけではないが、アシスト、得点力、
   リーダーシップ、判断力など、すべてにおいて優れた能力を有したオールスター・プレイヤー。
   サッカー・フリークとしても知られる。





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