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2006年7月14日(金)

スポーツを愛する1人として

昨日、ジネディーヌ・ジダン選手が母国フランスのテレビに出演してコメントをし、さらに議論が過熱した感のある“頭突き退場事件”だが、もういい加減、いかにも社会問題です然として語るのはやめてもらいたいと個人的に思う。

そもそもあの件は、まず発生した試合がワールドカップ決勝であったこと、そして当事者がジダンという世界最高峰のプレイヤーの1人であったこと、さらにはそのジダンの現役最後の試合というサイドストーリーが加わったこと、以上のような特異な条件が見事に揃ってしまったことによってこれほどまでに世界中で注目されただけに過ぎないのであって、言い換えれば、先に挙げたような特殊な要素を取り去ってしまえばここまで大きく取り上げるような事態には当たらないと思う、と勇気を出して言ってしまおう。

無論報道されているような内容の暴言をマテラッツィ選手が言っていたのだとしたらそれは由々しき問題であることは間違いないが、サッカーのみならず僕の知る限り、野球でもバスケットボールでも試合の中で相手選手に向かって汚い言葉を吐いて挑発することはプロの世界においては日常茶飯事。
子供のケンカの時なんかにも、「うち帰って母ちゃんとfxxkしてな」なんて言葉をぶつけ合う習慣のあるような国ならなおさら、それと同種の暴言をゲーム中に吐くことはあるだろうし、そこに人種や宗教などデリケートな問題が絡んでくることも少なくない。
でもそれらは確かに“言葉の暴力”には違いないけれど、そこに物理的な暴力で応えてしまっては(それも衆人環視というにはこれ以上しっくりくるシチュエーションは見当たらないだろうという場面において)、やっぱりどうしたって応えた方の「負け」になっちゃうと思うんだな。

先に、この件はいくつもの特殊な条件が揃うことによって注目された、と書いたけど、さらに根本的なことを言うならば、そもそもジダンがマテラッツィの発言を無視して頭突きで報復していなければ問題になることはありえなかった。
マテラッツィが暴言を吐いていたという事実すら表には出なかっただろう。
つまり、これはそういった類の問題なのである。

世界中で行われている様々なプロスポーツの試合において、このたびのマテラッツィのように相手の怒りの琴線に触れる暴言は毎日毎日、星の数ほど吐かれ、ぶつけられているに違いない。
今回のジダンのようにそれに暴力で応えてしまうプレイヤーもいるだろうが、たぶん大多数の選手たちはそれらの暴言に耐え、忍び、あるいはその怒りのパワーをプレイの力に換え、あるいは精神の統一を乱してプレイの質を落としてしまいながらも、少なくとも試合中の暴力という手段には訴えることなくやり過ごしているのが真相であると思う。
そしてそうやって暴言をぶつけられた側の選手が耐えている限り、暴言が吐かれたという事実すらも決して報道されることはないだろう。

僕たちは知らないだけで、おそらく世界中の至るところに、家族や国籍や人種やルーツを傷つける暴言を吐かれながらも、それを我慢してプレイを続けた“頭突きをしなかったジダン”が数多いる。

いくら挑発のためとはいえ、差別的な発言は決して許されるものではないし糾弾すべきものだが、それとはまったく問題を別にし、ジダンはプロスポーツ選手としてやっぱりあれは「負けた」んだと思う。
それだけの単純な問題。
あれがワールドカップ決勝じゃなければ、ジダンじゃなければ、ジダンが頭突きをしてさえいなければ、誰も知ることなく看過されていただけの出来事。
だから世論はもちろんFIFAをも巻き込んで、今みたいな感じで事態が推移しているのはちょっと不思議。

試合の勝敗だけに論点を絞って言えば、いくら延長も後半だったとはいえ、あの退場によって間違いなくフランスの戦力は低下、ある意味仕掛けたイタリア側の思惑通りになってしまった側面もあるから、ワールドカップ決勝というこの上ない大舞台であったからこそ、スーパースターであるジダンには堪えてほしかった。
チームの勝利のために。
相手の卑劣な仕打ちに野蛮な力で対抗することは誰にでもできるけど、優れたプレイで以って相手を叩きのめすことこそが一流のプレイヤーたる所以なのだから。
スポーツを愛する1人として、それが非常に残念でならない。


♪ Slit My Wrists - Buckcherry


コメント

いやー、正論正論。僕も編集長の意見に全く同感です。
と言っておきながら、真っ先に怒りだしそうなFT氏の真っ赤になった顔が目に浮かぶののは僕だけなんだろうか。。
若かりしときはお互い血気盛んだったよねぇ。

私も、ほぼ同様なことを考えてました。
つーか、スポーツ好きな人なら、同じなんじゃないかなぁ。騒いでいるのはニワカなファンなのではないかと……。ま、まあ、私もニワカに多少毛が生えた程度だけど(^_^;)ゞ

……と、いろいろ考えを書いてたら、スゴーク長くなっちゃったので、私の考えは改めて自分の日記に書くことにします(笑)

とにかく。内容はなかなか素晴らしかった今回のドイツWC。このような形で騒がれるのは残念であります。

そうそう、普通のコトですよね。
この程度で頭突きなんてしてたら、NBAはバスケじゃなく頭突き合戦になってしまいますw

FIFAも何を今更騒いでるんだろう?という感じ。
お偉方達も現役時代は散々罵った口だろうにw

編集長雑記殿
いつも不快に、楽しく読ませていただいております。

>相手の卑劣な仕打ちに野蛮な力で対抗することは誰にでもできるけ>ど、優れたプレイで以って相手を叩きのめすことこそが一流のプレイ>ヤーたる所以なのだから。
>スポーツを愛する1人として、それが非常に残念でならない。

ビジネスでもスポーツでも、そりゃ、いつも美しく戦っていられれば
誰も苦労しませんよ。
それこそ素人でも会社の経営者としてやっていけるでしょう、素人でもプロのスポーツマンとしてやっていけるでしょう。
要はそんな世界があるのなら、プロは必要ないんです。
「清く・正しく・美しく」を信じているのなら、あなたは大場化。以前からそう思っていたけど・・・・。
あんたにスポーツを語る資格もないし、このブログも閉じたらどうでしょう。
アナタの最大の欠点は、スポーツを知らずして(運動はしっているかも?)「あたかも語っている。」アナタがウザイ。

なんかコメントに横槍を入れるのは嫌なんですが

>「清く・正しく・美しく」を信じているのなら

編集長の日記を見て(今回のを含めて)、このように感じられるのが不思議でなりません。
単に報復行為に及んだジダンに対して「残念」と言っているだけだと思うんですが。

今回の事件に関しては、僕も大騒ぎしすぎだと思ってます。
同じフランス代表のテュラムが今大会後に引退を表明しているのが知られていないように(現在は保留中ですが)、あまりにも特殊な条件が揃ってしまっただけで、カントナのカンフーキックに較べたら些細な事件だったんじゃないかと(笑)

>しお
正論を吐くことは簡単なんだけどそれを遵守することのなんと困難なことか…!
お互い少年時代を知っているだけになんともアレだね。

>ヒ~
あちらも拝読しました。
FIFAのアティテュードからしたら、人種差別発言にとことんこだわりたい部分があるのも分かるんだけど、どうしても、騒ぎすぎ感ありますよね。
いかなる理由があっても、ジダンの行為を正当化する論調はやっぱりおかしいと思う。

>シンジ
まさにそうですね。
同じことを言われてもやりかえせば問題化するし、無視すれば闇に葬られる…。
プロスポーツの世界なら日常ですよね。

>もんちゃん
フォローありがとうございます。
そうですね、今回のジダンに比べれば、カンフーキックしかり、それ以外にも昨シーズンのピストンズvsペイサーズ戦の観客席乱入大暴れの方がよっぽど由々しき問題でしたし!

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